デンマークを代表する優良企業Novo Nordisk社について(20220228)

①   業績と業務内容

デンマークの企業の中でも安定して成長している企業はノボ・ノーデスク(Novo Nordisk)株式会社だと思っています。以下同社の業績について記述します。

 

2020年におけるノボ・ノーデスク社の従業員数は約45.000人(この内デンマーク国内約17,000人)で2015年の従業員数と殆ど同じ(41,000人内デンマーク17,400人)ですが、従業員一人当たりの売上高は伸びています。

業務推移(単位:10 億クローネ、 約180億円)

 

2017

2018

2019

2020

2021

売上高

111.7

111.8

122.0

126.9

140.8

経常利益

49.0

47.2

52.5

54.1

58.6

税引き前利益

48.7

47.6

48.6

53.1

59.1

納税率(%)

21.7

18.9

19.8

20.7

19.2

当期利益

38.1

38.6

39.0

42.1

47.8

利益率(%)

43.8

42.2

43.0

42.6

41.7

配当額kr. /

7.85

8.15

8.35

9.10

10.4

 図1.2021年の売上高に占める製薬品の割合

80% 糖尿病治療薬品

14% 血液病等治療生物薬品

6%   肥満者治療薬品

 

図2.販売先領域(2021年)

48% 北米

27% ヨーロッパ、中近東、アフリカ

11% 中国

14% その他の国々

出典:図1.2.Novo Nordisk2021年年次報告書

 

ノボ・ノーデスク社の安定した売上高の背景には、同社の製品は世界経済の動向に殆ど左右されない糖尿病者、肥満者への治療剤が主な販売製品となっているためです。図3は世界の国々における20歳~79歳の糖尿病者数で2019年時点での実数と2030年の推定値を表したものです。単位は100万人です。図3で見る通り例えば中国(Kina),における2019年の糖尿病者数は1億1640万人で2030年には1億4050万に増えると見込んでいます。そしてアメリカ(USA)の数値では2019年3100万人から2030年3440万人に増加、ドイツ(Tyskland)2019年950万人から2030年には1010万人に増加と図3表示されています。その他の国々の糖尿病者数を合わせた2019年にける世界中の糖尿病患者数が4億6300万人と語られております。

図3)

(出典:Diabetesatlas)

 

日本における糖尿病患者数の2005年から2017年の推移については下記図4の通りですが、日本においても今後も糖尿病患者数が増えることが見込まれています。世界各国で糖尿病患者が増え、その治療剤となるのがインシュリンでノボ・ノーデスク社の売上高の80パーセントが糖尿病と糖尿病予備群の治療に充てられる製品です。そんなことで、世界の糖尿病患者数が減らない限り、同社の売上高は今後増え続けるものと見ています。

図4)

②    ノボ・ノーデスク社歴と創業者について

ノボ・ノーデスク社の創業は1923年です。創業者はオウガスト・コロー(Schack August Steenberg Krogh 1874 -1949 ) という人です。

彼は1874年11月15日デンマークのユトランド半島の最東部の港町グレノー(Grenaa)で、造船業を営む父親ビゴー・デトレッフ・コローと母親マリア・マガレータ・ボレットの長男として生まれました。彼には2人の弟と3人の妹がいます。読み書きの教育は母親から受け、14歳で中学校を卒業、高等学校への進学には早過ぎる年だったので、親の許可を得て海軍の海兵隊の見習いになり、一時期海軍士官を目差したこともあったようですが、止めました。オーフスの高等学校を卒業した後コペンハーゲン大学に進学し、動物学を専攻しました。その傍ら、医学部で生理学と解剖学も習得しました。コローは生理学を教えていた、生理学教授クリスチャン・ボー(Chrisitian Bohr 1855-1911)の影響を受け、生涯の研究課題を生理学に決めました。コローはクリスチャン・ボーの研究室に入り、そこで、ボー教授の指導を受けながら蛙の皮膚と肺の呼吸作用の実験を始めました。彼は大変な努力家で寝食を忘れて実験に打ち込んだと言われています。そして25歳になる約2ヶ月前の1899年秋に動物学修士(Master of Zoology)として大学を卒業しました。卒業後はボアーの研究室に助手として勤め、ここで蛙の呼吸作用の研究を続けました。コローはこの研究の成果として1903年、「蛙たちの皮膚と肺の呼吸作用(Frøernes Hud-og Lungerespirationen)」についての論文を書き博士号を取得しました。そして1905年マリア・デッレックマン(Marie Dreckmann 1874-1943)と結婚しました。マリア・デレックマンの生家は農家で、彼女は父親兄弟・姉妹を結核亡くし、24歳になるまで母親と共に農作業しながら生活をしていましたが、1901年大学進学検定試験に合格し、コペンハーゲン大学の医学部に進学しました。ここで生理学と解剖学の授業を受け持っていたコローに出会い、彼女は大学を卒業する前にコローと結婚しました。そして1907年、デンマークで女子として4番目に当たる医学部卒業生となりました。

コローが世界に名を知られるようになったのは、1906年ウイーンで開催された科学学会の国際会議からだと言われています。彼はこの会議で大気に含まれている窒素は人体の新陳代謝過程に影響がないことを発表しました。彼は人間や動物の肺における空気循環(luftskiftet)の研究に努め、この研究結果が国際社会で評価されることになりました。1908年コローはデンマーク政府に高等学校の教科に生理学を採り入れることをアドバイスし、政府はコローのアドバイスを受け入れ、その教材はコローが書いたといわれます。その中の一つに「高校生のための人体の生理学」があります。同じ年、コローはコペンハーゲン大学の数学自然科学科の教授に就任しました。彼はその職に1944年まで就いていました。1919年頃コローは生理学学会誌(Journal of Physiology)に7本の研究論文を発表、この中で『生物組織の中での酸素の拡散定数と毛細血管の生理と解剖に関して』(Om 02’s diffusionskonstant i biologisk væv og kapillærernes fysiologi og anatomi) の論文がノーベル賞の取得に繋がったといわれています。何れにせよ、1920年、コローは医学・生理学のノーベル賞を受賞しました。

ノーベル賞とコペンハーゲン大学教授のタイトルを持ったオーガスト・コローと妻のマリアは1922年、アメリカに渡航しました。マリアは医学部を卒業した後、1914年、「人体の肺における空気拡散(Luftdiffusinen gennem Menneskerts lunger)という論文を書き、医学博士になりました。

コローの妻マリアは血糖値が高すぎる第二型糖尿病を患っていました。アメリカの渡航中にコロー夫妻は、糖尿病患者に牛のすい臓からインシュリンエキスを取り出して治療しているカナダ人の名前を聞き、カナダのトロント市にある試験場を訪ねました。試験場の名前はマックレオード試験所(Macleod’s laboratorium)で、その試験所に勤務するカナダ人の研究者フレデリック・バンチング(F.G.Banting)とチャーレス・ベスト(J.H.Best)そしてコリップ(J.B.Collip)に会いました。この人たちからインシュリンを採り出す方法の説明を受け、ここで二人はスカンジナビアおけるインシュリンのライセンス生産の契約を結ぶことに成功しました。帰国した二人はマリアの糖尿病の治療に携わっていた友人でもある、医者ヘーゲドン(H.C.Hagedorn)に相談し、牛のすい臓からインシュリン採り出す実験を初めました。実験に入って3週間目の1922年12月21日、この二人は牛のすい臓からごく僅かの量でしたがインシュリンを採り出すことに成功しました(注1)。そしてそれを基に1923年3月、インシュリン製造を目的にノボ・ノーデスク(Novo Nordisk)という会社を創業しました(注2)。

 

(注1) インシュリンの原材料は豚・牛の膵臓(すいぞう、英語pancreas)

(注2) デンマークでノーベル賞を取得した人の数は全部で11名ですがその内の3名はノーベル賞を基に研究施設と企業を創立しています。その一つがノボ・ノーデスク社です。

 

ノボ・ノーデスク社は、インシュリンのライセンス製造販売においては『個人の利益には繋げないこと』をカナダの会社と約束しており、この企業方針は今日のおいても継続されています。糖尿病患者の治療に必要なインシュリンの生産によって、ノボ・ノーデスク社は業績あげ、今日デンマークの企業の中でも最優良会社になっています。2010年におけるノボ・ノーデスク社の売上高は約610億クローネ(約1兆円)で従業員数約3万1千人の会社になっていました。その後も業績は伸び、上記で記述した通り、2021年の売上高は1408億クローネ(約2.4兆円)になりました。

 

③    ノボ・ノーデスク基金

ノボ・ノーデスク社はインシュリンの製造販売等で得た利益の一部を社会に還元することを目的として1989年ノボ・ノーデスク基金設立しました。同基金が支援した過去の数値の一例として2011年におけるプロジェクトや奨学金額を見ますと次の通りです。

 

プロジェクトへの支援(1クローネ約19円)

・デンマークの医師と自然科学の研究支援 2、850万クローネ(約5.4億円)

・北欧における内分泌学研究への支援   2,460万クローネ

・傑出したプロジェクトへの支援     1,000万クローネ

・美術史研究支援             100万クローネ

・看護研究支援              150万クローネ

 

奨学金への支援

・デンマークにおける臨床研究奨学金   1,000万クローネ

・ノボ・ノーデスク基金教授奨学金     200万クローネ

・一般医学学位取得後の奨学金       150万クローネ

 

この他に、ノーボ・ノーデスク賞として150万クローネ、創業者オーガスト・クロー賞

25万クローネなどが計上されています。2011年におけるノボ・ノーデスク基金計上額は33億1300万クローネ(約630億円)になっていますがその後も基金額が増え、2016年42億クローネ、2017年58億クローネ、2028年39億クローネ、2019年49憶クローネ、2020年55億クローネが計上されています。

 

ノボ・ノーデスク基金がコロナ予防対策費として寄付したお金の額は4億6千万クローネでその主な内訳は:

・テストセンター整備費支援金として2億5千万クローネ

・コロナ対策プロジェクト44件に対し計7,770万クローネ

・コロナ菌の消毒剤としてのエタノール生産支援金など

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