地域温水供給システム

 

 

 

 

 

 

 

480世帯に熱を供給する

 

独立採算制を導入している地域暖房会社

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はじめに; デンマークで地域温水供給制度を導入したの は、今から 100 年以上前の 1903 年 9 月であ る。コペンハーゲン市に隣接するフレデリッ クベアー市が廃棄物焼却場の建設に伴い廃棄 物を熱源とし、市内の病院や市の施設に温水 を供給し始めた。これに続きコペンハーゲン 市においても 1925 年に廃棄物焼却場が地域 に温水を供給し始めた。そしてその後ユトラ ンド半島西部の町エスビア 1927 年、オーフ ス 1928 年で地域温水供給が始まった。デン マークにおいてコージェネ発電(熱電供給) が始まったのは 1942 年のことである。1970 年代の石油供給危機(オイルショック)を受 け、発電所は燃料を石油から石炭に替え、北 海油田からの天然ガス、そして廃棄物・ウッ ド・チップ、麦藁などのバイオマス燃料とし たコージェネ発電所に切り替え、住宅、施設 などの暖房は個別の石油ボイラーから地域暖 房に移行させた。

2018 年 1 月現在、デンマー クの暖房設備量 280 万箇所の暖房の状況は下 記の通りです。

    表:デンマークの暖房供給及び熱源比率

   

  

1. 地域暖房の導入目的と熱源について

デンマークが地域暖房を推進しているのは、 燃料の効率化と地球温暖化ガス特にメタンや 二酸化炭素の削減である。 地域暖房の熱源の多くは再生可能エネルギー (太陽熱、風力、バイオマス、バイオガス、 地熱)である。その他の熱源は天然ガス、石 炭そして産業界からの排熱となっている。 バイオマスとは麦藁、ウッドチップ、廃棄物 のことで、デンマークでは年間約 300 万トン の廃棄物を焼却し、それによって、電力消費 量の約 4%、暖房と給湯の約 23%賄っていた (2015 年)。地域暖房(給湯)の熱源として は他に農家から出る液肥をベースとして生産 しているバイオガスがある。 2020 年 8 月現在バイオガスプラントが約 46 カ 所あり、そこから供給されるバイオガスは地 域暖房(給湯)の燃料として使われている。 廃棄物利用に関し例を挙げるならば、 ・コペンハーゲン市内から 10 ㎞程離れた西部 コージェネ発電所では年間に 55 万トンの廃棄 物を焼却し、それによって 8 万世帯の電力と 7 万 5 千世帯分の熱を供給している。 ・約 480 世帯に地域暖房(給湯)している事 業では、熱源の約 76%は麦藁で残りは太陽熱 21%で、天然ガスは無し、灯油 3%(2019 年) となっていた。 これら地域暖房導入政策の結果などで今日、 デンマークの灯油の消費量は 1972 年の 450 万 トンから 50 万トンに減らしたと言われ、この ことで二酸化炭素削減*に貢献していることが 解る。

* 灯油 1 リットルの燃焼による二酸化炭素排出量約 2.51 ㎏。

 

2. 地域暖房の仕組みについて

地域暖房の熱供給の仕組みは、基本的に、水 の供給と同じである。水道との違いは配管が 断熱されていること、熱供給先がコージェネ 発電所であり、またバイオガスプラントであ りそして独自に熱源を確保していることであ る。そのことで、コージェネ発電所からの熱 供給は発電所から直接需要家に供給し、バイ 種類 供給先 比率 熱源 比率 廃棄物、バイオマス (ウッドチップ、麦藁) 大半 石炭、石油 0.60% バイオマス、太陽熱、風 力、バイオマス、バイオ ガス、地熱 大半 天然ガス、石油、排熱 一部 天然ガス 15.2 灯油 9 その他地熱 11オガスプラントの多くはバイオガス(メタン ガスと二酸化炭素混合ガス)を地域暖房会社 に供給し,そこでコージェネ発電をし需要家に 熱を供給している。また地域暖房会社の場合 の多くはバイオマスや太陽熱、そして天然ガ スなどを熱源としてお湯を生産しそれを需要 家に供給する。そういうことから、需要家に 供給される温水の仕組みに多少の違いがある が、コージェネ発電にせよ、地域暖房会社に せよ、需要家に供給する温水の温度は約 70 度 で3気圧程度で送らている。主管となるお湯 パイプは鉄材を使い、送りと戻りの2本のパ イプが1本の断熱配管に収められ、お湯漏れ が探知できるよう断熱材の中にセンサーが埋 め込んである。主管となるお湯管は車道や歩 道下に埋め、その主管から需要家に配管され るパイプは曲げることが出来る断熱プラスチ ック管使っている。需要家は供給された 70 度 前後のお湯を熱源とし水道の水を温める。そ のための熱交換器が各需要家に取り付けられ それによって、風呂場や台所などの給湯用の お湯を作っている。室内暖房は供給された温 水そのまま暖房器具(温水ラジエーター)や 床下暖房のお湯として使っている。室内温度 はラジエターに取り付けてあるセンサーで調 整し、床下暖房はその場所毎に付けた温度セ ンサーがお湯の取口に取り付けた制御装置で 調整されるようなっている。例えば風呂場の 室内温度計を 25 度にセットすると床下に配管 してあるお湯パイプのお湯がそれに合わせ流 れ、また止まる仕組みになっている。

          

 

3.暖房費について

デンマークのコージェネ発電所や熱供給会社 の殆どは非営利の独立採算制の事業体をとっ ている。設備投資は銀行からの融資を受け、 返済は売電や熱代収入で賄うようにし利益を 出さない一方で倒産しないような運営管理を している。そのために熱供給会社は需要家の 代表による理事会メンバーを選出し年 1 回総 会を開き会計報告書を基に需要家からの承認 を得ることにしている。熱量の値段は各地域 暖房事業団体で異なるが、筆者の熱代の明細 書の項目を見ると、年間熱消費量、年間計測 器代、契約料金、住宅の面積(m2×単価)料 金、それに消費税 25%が加算されている。筆 者の 2019 年における消費税を加えた住宅面積 130m2の熱代は約 11,000 クローネ(約 18 万円) となっていた*。 熱代の支払いは見込み消費 量での概算払として 10 回に分け、年に一度清 算することになっている。需要家には無線に よる熱供給メーターが取り付けされているた め、検針という制度は無い。*灯油を使った場 合は約 2 トンの熱量となるが地域暖房の場合 は熱代が半分となっている。

 

4.地域暖房導入による経済効果について

地域暖房の導入のよる経済効果は、国内資源 の活用と化石燃料の削減、断熱パイプや熱制 御装置など技術開発を通した新たな雇用を確 保し、輸出産業として外貨獲得の手段になっ ている。2018 年の数値で見ると地域暖房事業 団の売上高は 610 億クローネ(約 1.1 兆円) で輸出額 67 億クローネ(約 1,300 億円)とな っていた。また、地域暖房会社(2018 年現在 1921 社)の雇者数 1700 人であるが、地域暖房 業界全体の雇用者数 10,400 人と言われている。

 

おわりに: デンマークの地域暖房は廃棄物、バイオガス、 太陽熱を最大に利用し、石炭や石油の消費を 減らし、地球温暖化ガスの削減に繋げ、さら に断熱パイプの製造技術開発や熱供給システ ムのノウハウを通し雇用の確保と外貨獲得に 繋げている。さらにお湯を供給する地域暖房 によって国民の健康管理にも役立ているよう に思える*。(了)

*体に優しい室内温度と室内空気の汚れが出な いため 引用文献:Energistatistik 2019 及び「風の がっこう」研修資料